第204話 (2000/02/25 ON AIR) | ||
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『機会と人間』 | 作:四夜原 茂 |
銀行のキャッシュディスペンサー(ATM)の前で、誰かが |
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女 |
あれー、どうなってるのかしらこれ。 |
「ピ…ピ…ピ…」と操作音。 |
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女 |
ちょっとぉ、何よ、これ。 |
「ピピピピ……」と乱暴に画面を押す音。続いて自動ドアが |
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女 |
あ、あの。すみませーん。 |
男 |
は? |
女 |
ちょっと聞いていいですか? |
男 |
あ、はい。何ですか? |
女 |
これ……どうなってると思います? |
男 |
これって?……あれ? |
女 |
私ね。何もしてないんですよ。ただカードを入れてお金を引き出 |
男 |
もう一度最初からやりなおしたらどうですか? |
女 |
ええ。でも、どうやって最初からやればいいんですか? |
男 |
ええと、どこかに「中止」のボタンとか……ないなぁ。 |
女 |
さっきから適当に押しまくってるんだけど、こんなふうに…。 |
「ピ、ピ、ピ、ピ…」 |
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男 |
ここに電話があるから、電話してみたらいいんじゃないですかね。 |
女 |
そんなことしてたら時間かかるじゃないですか。ここに誰かいる |
男 |
まあそうですよね。どこかの支店に電話がかかって、そこから誰 |
女 |
私、…急いでるんです。なんとかしてくれませんか? |
男 |
なんとかって…僕がですか? |
女 |
お願いします。助けて下さい。私ね、機械に弱いんです。 |
男 |
僕だって別に強いわけじゃないですよ。 |
女 |
いいえ、私より絶対に強いんです。本当です。私まったくダメな |
男 |
……2回も? |
女 |
別に金額をまちがえてたとか、ラガールカードのかわりにテレホ |
男 |
ダメって、その、そういうのは機械に弱いとか言わないんじゃな |
女 |
ちょっと待って!それ以上言わないで。 |
男 |
……。 |
女 |
わかってるんだから。わかってるのよ、私も。はたちくらいの時 |
男 |
はあ…。 |
女 |
「ついてない 」最悪だわ。何やってもダメみたいな感じがする |
男 |
それ、本当にあったんですか? |
女 |
………だから機械に弱いってことにしてるんじゃないの。話し出 |
男 |
わかりましたよ。ダメかも知れないけど、やってみます。えーと、 |
「ピッ」と音がして、機械が動きはじめる。 |
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女 |
「もう一度最初から操作して下さい」? |
男 |
なんだかわからないけど、うまくいきましたね。 |
女 |
本当ね…。 |
男 |
…あの、あんまりうれしそうじゃないですね。 |
女 |
いいえ、あなたには感謝してます。ありがとうございました。… |
男 |
はあ、まあ、ちょっと納得できないでしょうね。 |
女 |
どうして私だけこんな目に合うのかなぁ。私、変なこと何もして |
男 |
機械がいけないんですよ。あなたが悪いわけじゃないです。 |
女 |
…ありがとう。今のことば、心に染みたわ。 |
男 |
さあ、もう一度最初から操作しましょう。 |
女 |
ええ……あなた先にやってくれない? |
男 |
でも急いでるんでしょう? |
女 |
急いでるんだけど、何か不安なのよ。 |
男 |
でも、僕は、その…。 |
女 |
なに? |
男 |
この機械に用があるわけじゃないんですよ。 |
女 |
え? |
男 |
あ、そう?なんか、そう言われるとうれしくなってきちゃった。 |
女 | あたしね、機械には弱いんだけど人間には強いのよ。 |
男 |
ああ、そうなんですか。 |
女 |
そう。いつも機械にいじめられて、誰かに助けてもらってるわけ。 |
男 |
あ、あれ、そうですか? |
女 |
うん。もっとかわいいのにした方がいいわよ。 |
男 |
はい。さあ。どうぞ、やって下さい。 |
女 |
うん。まずこの取り引きのボタンを押すのよね。スー、ハー、スー、
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男 |
なんで深呼吸してるんですか? |
女 |
精神を統一してるんじゃないの。 |
男 |
はあ。 |
女 |
く、くくく…。やっぱりダメー。あなたかわりにやってくれない? |
男 |
1234そんないいかげん番号でいいんですか? |
女 |
1回百万円までだから5回、五百万円出してほしいのよ。私、大通り
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男 | 五百万って、あの……。 |
女 |
間に合わないのよ。お願い。あ、もう一度言うわよ、番号は1234よ。
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男 |
1234……どうやって忘れりゃいいんだ? |
曲。 | |
女 |
あ。ごめんなさい。おそくなって。なかなかタクシー来なくって。 |
男 |
はい。五百万円とカード。 |
女 |
ありがとう。助かったわ。 |
男 |
じゃ。 |
女 |
あ。ちょっと待ってよ、何かお礼しなくっちゃ。 |
男 |
(遠くから)あなたはけっこう「ついてる 」なんですよ。アハハハ……。 |
(終わり) |