第202話 (2000/02/11 ON AIR) | ||
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『冬の花火』
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作:深津 篤史 |
車のゆきかう音。 |
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女 |
いつになったらとびおりるんですか |
男 |
え |
女 |
ずっとみてたんです。20分くらい |
男 |
あ、うん。 |
女 | さむいね |
男 | ああ |
女 | ここからじゃ死ねないかも |
男 | いや |
女 | どうしてビルの屋上とかにしないんですか |
男 | ビル |
女 |
陸橋じゃだめですよ。運良く車にひかれたり |
男 |
運良く |
女 | タイミングが必要ですよね |
男 |
ああ |
女 |
トラックの荷台におちたりしたら |
男 | うん |
女 |
落ちたショックで気を失って、目が覚めたら |
男 | 北海道とか |
女 | 寒いところはいやだなあ |
男 | 君は |
女 | ねえ、何してるんですか |
男 | 俺、外回りの仕事やってんだけど |
女 | 職業なんかきいてません |
男 |
浄水器売ってる。一家に一台浄水器。 |
女 |
トリハロ? |
男 |
発ガン物質。水のんでガンになってちゃ |
女 |
うん |
男 |
君んちにもどう |
女 |
あのね |
男 |
犬ひいちゃってさ |
女 |
え |
男 |
ここで |
女 |
ここって |
男 |
ちょうどこの陸橋の下あたり。雑種だったと |
女 |
え |
男 |
田舎の山道じゃないんだし、車が危険だってこと |
女 |
うん |
男 |
気になってさ |
女 |
どっちが |
男 |
え |
女 |
ノラ犬のその後、それとも危険を承知で国道を渡る |
男 |
どっちだろ 考えてなかった |
女 |
たぶん死んじゃったんでしょ |
男 |
うん |
女 |
この辺、車通り多いし |
男 |
何度も引かれてせんべえみたいに |
女 |
うん |
男 |
まあ、こう暗いと見えないんだけど |
女 |
ねえ、何が気になってるの |
男 |
うん |
女 |
犬好き |
男 |
いや、好きじゃない。訪問販売やってるでしょ。 |
女 |
じゃあ、何で。ちょっとしたセンチメンタリズム |
男 |
いや、何となくひっかかっちゃって |
女 |
ふうん |
男 |
けどなんか、どうでも良くなってきた |
女 |
私ね |
男 |
うん |
女 |
今朝、彼氏が死にました。 |
男 |
え |
女 |
交通事故じゃないよ |
男 |
それは、ええと |
女 |
突然死だって。最近じゃ20代にもそういうの |
男 | うん |
女 |
私はとびおりにきたんじゃないよ |
男 |
え |
女 |
ここからじゃしねないもの |
男 |
じゃあ |
女 |
別れるつもりだったの |
男 |
彼氏と |
女 |
うん。ばかみたいだね |
男 |
ええと |
女 |
さよならの手紙かいたんだけど必要なくなっちゃった |
男 |
それ |
女 |
うん |
ライターを灯す音 |
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女 |
どうでもいい事だよね |
紙が火にはぜる音 |
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女 |
どうでもいい事なのに、ねえ |
男 |
ああ |
女 |
花火みたい |
―了― |