第199話 (2000/01/21 ON AIR) | ||
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『沈黙のエレベーター』
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作:四夜原 茂 |
エレベータが動く音。「ウィーン」とか「ゴゴゴゴ…」とか。 |
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男 | 何階ですか? |
女 | あ、7階お願いします。 |
男 | はい、7階ですね。(ボタンを押す) |
女 | どうもありがとう。 |
エレベータはゆっくりと上昇してゆく。ウィーンとかゴゴゴゴ…と |
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男 | かなり古いですよね。 |
女 | え? |
男 | かなり古いですよ、このエレベーター。 |
女 | そうですね。 |
男 | まだ2階を通過したところでしょ。まだまだ着きませんよ、これじゃあ。 |
女 | ふふふ…。(笑う) |
男 | …よかった。笑ってくれて。 |
女 | …よかったって? |
男 | 僕ね、エレベーターの中で二人っきりになるの苦手なんですよ。 |
女 | 特に男と女だとね。 |
男 | そうでしょ。目のやり場に困るし、仕方なく動いてくランプを見つめる |
女 | 扉が開いてどちらかが出て行くと思わずため息がもれたり。 |
男 | あ。あなたもそうなんだ。 |
女 | これくらいのエレベーターならまだいい方だわ。もっと大きいと最悪。 |
男 | 二人で正方形の角んところにへばりついて無視し合うんでしょ。 |
女 | 「がんばるんだエレベーター君」とか? |
男 | まあ、たわいのない事をしゃべるだけなんだけど…… たいがい無視されますね。 |
女 | そうでしょうねぇ。 |
男 | …あなたは、ちゃんと笑ってくれたから…ちょっとうれしかったな。 |
女 | ……あれ…4階のランプは? |
男 | そうですよね。4階のランプ、こわれちゃってるのかな。 |
女 | 動いてるわよねぇ。 |
男 | ええ、動いてます。 |
女 | …普通なら私も無視したかも知れないわよ。 |
男 | あ。やっぱり? |
女 | 今日ちょっと楽しいことが起こりそうだから笑ったのかもね。 |
男 | あ。7階で誰かが待ってるとか? |
女 | ふふふ、…まあ、そんなとこ。 |
男 | いいなあ。うらやましいなあ。 |
女 | ……あなたは? |
男 | 僕ですか?僕を待ってる人なんていませんよ。 |
女 | いや、そうじゃなくてね。何階に行くの? |
男 | え? |
女 | ボタン押し忘れてるんじゃない? |
男 | ああ、いいんですよ。まず楽しいことが起こりそうなあなたを優先します。 |
女 | あ、そう…。変じゃない? |
男 | 何がですか? |
女 | 5階のランプもこわれてるのかな? |
男 | きっとそうですよ。だって動いてるじゃないですか。 |
女 | でも、もう着いてもいいころだと思うけど。 |
男 | …えーと、そうですよね。いくら古いエレベーターでも、ちょっと遅すぎるかな? |
女 | ほかの階のボタン押してみましょうよ。 |
男 | はいはい。(いろんなボタンを押す) |
女 | どう? |
男 | これで各駅停車にはなるはずなんだけど…あれ?動いてんのかな? |
耳をすませると、動いている音はする。 |
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女 | 動いてるわ。 |
男 | 変だなあ。7階が最上階なんですよ、このビル。どこまで上ってるのかなぁ。 |
女 | 非常電話はどこ? |
男 | ええと、ないですね。 |
女 | 非常電話、ないの?そんなエレベーター見たことないわよ。 |
男 | だってほら、ないですよ。 |
女 | ……私、ケイタイ持ってるから電話してみる。 |
男 | 電波とどきますか? |
女 | ええ?こわいこと言わないでよ。…あー、よかった。ちゃんとエリアに入ってる。 |
「ピッ」と発信ボタン。 |
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男 | 7階で待ってる人? |
女 | そう。…あ。クリス?あたし。エレベーターが変なことになっちゃって困ってるの。 |
男 | ああ、よかった。これで助かりますね。 |
女 | 本当、どうなってんのかな、このエレベーター。あなたがさっき乗ってたときは何でも |
男 | はい。ふつうに動いてましたよ。地階から1階までは。 |
女 | まだ動いてる? |
男 | 動いてますね。どんどん上がってます。 |
女 | おいおいって感じね。 |
男 | …なんか。あれですよね。 |
女 | なに? |
男 | エレベーターのトラブルは困るけど、お話できましたよね。 |
女 | そりゃそうだけど、やっぱりトラブルは困るわ。 |
男 | そうですか?僕は何の会話もないエレベーターよりちょっとしたトラブルなら、 |
女 | そおぅ?…あ。クリス?どうなった?え?動いてる?だから、動いてるんだって、
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「ガッチャン」とエレベーターが止まる。 | |
男 | あ。 |
女 | ちょっと待って。止まったわ。 |
「ガチャンガチャン」と扉が開く。 | |
女 | 扉も開いた。 |
男 | じゃ、僕はここで降ります。けっこう楽しかったなぁ。またいつかあなたと会ってみたい |
男、歩き去る。 |
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女 | あ。さよなら。…え?ああ、地下から乗ってきた男の人。ここ…どこなのかなぁ…。
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「ガチャガチャ」と扉がしまる。エレベーターが降りてゆく。 | |
おわり |